研究会趣旨
本研究会 代表理事
折茂 慎一
東北大学 材料科学高等研究所(WPI-AIMR) 所長
東北大学 金属材料研究所 教授
高エネルギー加速器研究機構 客員教授
―水素科学技術の将来のために―
世界規模で環境・エネルギー問題がクローズアップされるなか、国内でも温室効果ガス排出量を2050年までに実質ゼロとする目標が掲げられており、今後、水素の有効活用に向けた技術開発の推進やそれを支える水素に関連する基礎科学の探究および学理の構築が、いっそう重要になると考えられます。
水素は二次エネルギーとして位置づけられます。また、水素には私たちの暮らしに欠かせない多様な物質・材料の合成および改質や高性能化などの役割もあります。いっぽうで、例えば鉄鋼材料での水素脆化などは抑制すべき長年の技術課題です。最近では、有用有機物質と水素の同時合成反応や次世代創蓄電デバイスでの新たな水素化物の利用、また室温に迫る水素化物超伝導の探索など、数多くの萌芽研究も進んでいます。さらに、物質・材料中や反応過程での水素の挙動を精密に捉えるための中性子や放射光などを用いた量子ビーム計測や計算科学などにおいて、目覚ましい進展もあります。
しかしながら、水素に関する基礎科学や技術開発(以下、水素科学技術)は、工学・化学・物理学・生物学など、極めて広範な学問分野にわたるため、最先端動向の共有や連携研究の促進のための場は必ずしも十分に整備されていないのが現状です。広範な学問分野をシームレスに繋ぐ複眼的な視野、そして基礎科学から技術開発・社会実装までを見通す中長期的な視点、さらに関連分野の将来を託す若手人材の育成などの観点で、水素科学技術を深化・ 拡大する取り組みとそのためのプラットフォームの形成が希求されています。
このような状況に鑑み、新学術領域「ハイドロジェノミクス」にご参画の先生方、日本MRSの執行部の先生方、さらに産業界の皆様方からのご指導やご助言を頂きまして、2022年2月に、日本MRS研究会制度のもとで「水素科学技術連携研究会(Hydrogenomics Alliance, Japan)」を設置させて頂くこととなりました。
本研究会は、以下の3つの理念を掲げています:
1) 異なる学問分野を尊重して、また既存の学協会等とも連携しながら、将来の連携研究を促進するための最先端動向の共有の場とする
2) 産学官の研究者・技術者が、基礎科学から技術開発・社会実装までを見通す議論の場とする
3) 関連分野の先達から若手に至る全世代交流を目指すことで、特に若手研究者・技術者にとっての人脈形成の場とする
水素に関する基礎科学や技術開発に携わる多くの学界・産業界の皆様方にご関心をお寄せ頂きたく願っておりますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。